みなさん、こんにちは。ITコミュニケーションズ(ITC)です。
今回は、東京大学との社会連携講座においてRA(リサーチアシスタント)として、一緒に取り組みを進めている、博士課程の松谷さんにブログ記事を書いていただきました!
先日島根で開催された学会発表の模様や最新研究の狙いについて、松谷さん自身の言葉で解説していただいています。それでは松谷さん、よろしくお願いします!

みなさん、こんにちは。東京大学大学院 博士課程/MISTER リサーチアシスタント(RA)の松谷です。
私たちは現在、ITC×東京大学の社会連携講座として、共同研究プロジェクト「Marketing Integration Systems: Theoretical and Engineering Research(通称:MISTER)」を推進しています。
今回は、MISTERで進めている研究の一つについて、島根県立大学松江キャンパスで開催された人工知能学会の研究会で発表を行いました。
テーマは、「データサイエンス活用 PoC プロジェクトのための企業組織モデリング」。
少し難しそうなタイトルですが、研究の出発点にあるのは、実はとてもシンプルな問いです。
「データを分析したその先で、誰が、どのようにその結果を使うのか?」
今回は、そんなデータサイエンス活用の“前段階”に着目した研究をご紹介します。
2026年8月、島根県松江市の島根県立大学松江キャンパスで開催された「人工知能学会 第2種研究会 SIG-MAKS」において、MISTERで進めている研究成果を発表しました。

発表タイトルは、「データサイエンス活用 PoC プロジェクトのための企業組織モデリング」です。
今回の研究で着目したのは、企業がデータサイエンスを活用するときに欠かせない「業務や組織を理解する」というプロセスです。
データ分析というと、「どのようなデータを集めるか」「どんなAIや分析手法を使うか」といった技術的な部分に目が向きがちです。
しかし、実際に分析結果をビジネスに活かすためには、
「この分析結果は、どの部署が使うのか」
「その部署は、誰とどのように関わっているのか」
「そもそも、その人たちは何を実現したいのか」
といった、企業の組織や業務の構造を理解することが重要になります。
今回の研究では、この部分を生成AIによって支援できないかを検討しました。
今回の研究のポイントの一つが、企業やその周辺の関係者を、一つの大きな「システム」として捉えていることです。
例えば、BtoBマーケティングの仕事には、営業部門やマーケティング部門だけが関わっているわけではありません。
顧客企業、製品・サービスを提供する企業、広告代理店、パートナー企業など、さまざまな関係者が存在し、その間で情報やサービス、価値がやり取りされています。
そこで本研究では、システムズエンジニアリング等のステークホルダーの分析で使われるStakeholder Value Network(SVN)という方法を活用しました。
SVNでは価値の交換に注目して、「誰が関わっているのか」「誰と誰の間にどのような関係があるのか」をネットワークとして整理します。
これによって、複雑な企業活動を俯瞰しながら、データ分析によってどこに価値を生み出せるのかを考えやすくします。
今回の研究では、こうした分析を生成AI(LLM)に支援させる仕組みを構築しました。
企業の組織構造などの情報を生成AIに与えることで、
1. どのようなステークホルダーが存在するのかを整理する
2. ステークホルダー同士の関係や価値の流れを可視化する
3. それぞれのステークホルダーが何を求めているのかを整理する
という流れで、企業組織を段階的にモデル化します。
そして、実際のBtoBマーケティング支援企業を対象として、社員の方々へのヒアリングをもとに人が作成したモデルと、生成AIが作成したモデルを比較しました。
その結果、生成AIは、主要なステークホルダーや関係性を幅広く抽出し、人が作成したもの以上に多くの関係性や要求の候補を提示できることがわかりました。
つまり、「考慮すべき関係者や論点を幅広く洗い出す」ことには、生成AIが力を発揮する可能性があるということです。
興味深かったのは、生成AIがたくさんの候補を出せるからといって、それだけで十分ではなかったことです。
実際の企業では、
「この会社では営業部門とマーケティング部門がどう役割分担しているのか」
「実際の意思決定には誰が強く関わっているのか」
「この業務では、どの関係性が特に重要なのか」
といった、その企業で働く人だからこそ知っている情報があります。
今回の比較でも、生成AIは幅広い関係性を提示できる一方で、どの関係が特に重要なのかを判断したり、企業固有の業務慣行や暗黙知を反映したりする点では、人による分析が重要であることが確認されました。
そのため、今回目指しているのは、生成AIにすべての分析を任せることではありません。
生成AIに「考えられる候補」を幅広く提示してもらい、そこに実務者や専門家の知識を組み合わせながら、重要なポイントを絞り込んでいく。
そんな「人と生成AIが一緒に企業を理解する」ための分析支援が、今回の研究から見えてきました。
MISTERでは、BtoBマーケティングをはじめとする複雑な企業活動を、システム思考やデータサイエンスなどの方法論を組み合わせながら捉える研究を進めています。
今回の発表は、その中でも「企業や業務をどのように理解し、データ活用につなげるか」という研究の第一歩です。
今後は、今回の方法を複数の企業や業種へ適用するとともに、企業固有の知識や業界知識を生成AIに取り込み、専門家との対話を通じて分析結果を発展させていく仕組みについても検討していく予定です。
データを分析するだけで終わるのではなく、「誰の、どのような意思決定やアクションにつなげるのか」までを見据えたデータ活用へ。
MISTERでは今後も、企業の実務知と大学の研究知、そして生成AIを組み合わせながら、新しいBtoBマーケティングのあり方を探っていきます。
今後の研究の進展についても、このブログでお伝えしていく予定です。どうぞご期待ください。
松谷 春花
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 人間環境学専攻
知的システムデザイン分野